Making process of 【朝露】ヴォイス録音編

楽曲制作

 前回の記事では、MIDIデータ作曲法で作った曲【朝露】に音を重ねていきました。その中でヴォーカルの不安定さが気になってきたので、ヴォーカルを取り直して、さらに、ハモリパートを加えていきます。ヴォイスレコーディングの方法や考え方を書いていきます。

ヴォイスレコーディングの環境

 歌を録音するときに、必要となるのがマイクなどの録音機器に加えて、歌うときに自分の声と、演奏を録音したオケ(伴奏)のトラックを聞くためのモニター環境です。このモニター環境は、見過ごされがちですが、歌の出来に大きく関わってくるので、この点についても、これから詳しく書いていきます。

ヴォイスレコーディングに必要な機材

  • DAW(パソコン)
  • オーディオインターフェイス
  • マイク
  • マイクプリアンプ
  • モニター用ミキサー
  • モニター用ヘッドホン

大まかに考えられるのが、以上の機材と思います。この中で、オーディオインターフェイスにヘッドホン接続端子がついているので、モニター用のミキサーは使っていないという人も多いと思われます。そこで、なぜモニターミキサーが必要なのかという点について、オーディオインターフェイスの問題点をあげながら考えてみます。

オーディオインターフェイスの問題点

  • ダイレクトモニタリングが完全ではない
  • 自分の声と、オケの音量のバランスが取りにくい
  • マイクプリアンプの性能が低い
  • デジタルイン・アウトにトラブルが多い

といった事が、オーディオインターフェイスの欠点としてあげられると思います。

 ダイレクトモニタリングというのは、レコーディングするときの音の遅れの対策として考え出されたシステムで、マイク入力に入った音をそのまま、ヘッドホン端子に返してやれば、音が遅れずにすむというものです。これでレコーディングの音の遅延の問題は解決したかに見えますが、実はこのシステムは欠点が多いです。

 初めに問題になるのが、マイク入力に入力した音の返しのレベルが調整できないので、録音に適したレベル、つまり音割れがしない最大レベルの音がそのまま返ってくるので、自分の声の返りが大きすぎるということになります。

 つぎの問題は、ダイレクトモニタリングを、オーディオインターフェイスのコントロールパネル上のチェックボックスでオンにしても、DAWのモニターセクションのコントロールと競合して、うまく動作しないことが起こります。これはDAWとの相性にもよりますが、モニタリング、レコーディングのたびにコントロールパネルを呼び出して切り替えなければならないということがおきたりします。オーディオインターフェイスの広告をみたり、雑誌記事をみると、一台あれば、レコーディングは完璧といったことが書いてありますが、実は単体では、ヴォイスレコーディングは難しいです。

ヴォイスレコーディングのためのモニターシステム

 オーディオインターフェイスは、実際のところパソコンと楽器(声)の橋渡しとして割り切って使ったほうがトラブルも少なく、すこしでも快適な録音環境になります。それでは、どうやってこの欠点を補っていくかというと、

  1. マイクプリアンプ
  2. モニター用ミキサー

を導入することで、解決していきます。マイクプリアンプはたいてい2系統の出力端子をもっているので、片方をオーディオインターフェイスのライン入力端子(マイク入力端子ではない、念のため)につないで、もう片方をモニターミキサーにつなぎます。こうすれば、ミキサー上で自分の声の大きさをコントロールできるようになります。あと、このミキサー上にオーディオインターフェイスのアウトを立ち上げておけば、オケの大きさも調整できます。これで、やっと自分にとって歌いやすいバランスで録音にのぞむことができます。DTM系のFacebookグループなどを見ていると、音程の取れていない歌の投稿をよく見かけますが、これは、モニター環境が、

  • 自分の声がでかすぎる
  • 自分の声が小さすぎる
  • オケがでかすぎる
  • オケが小さすぎる

ということになっている可能性がたかいです。これは、やはりオーディオインターフェイスだけで解決できるような問題ではないと思います。

最低レベルのマイクプリアンプ

 市販されている最低価格帯のマイクプリアンプであっても、オーディオインターフェイスについているものよりは、音質的にもマシだったりします。さらに、さっきもいったようにモニター環境の改善になるので、なんとか導入したいところです。

 マイクプリアンプは、じつはレコーディング愛好家にとっては、録音の影の主役のような存在で、ビンテージものなどは、100万を超えるような価格で取引されることもよく聞きます。そこまでいかなくとも、10万から20万の価格帯のマイクプリを使って自宅スタジオでレコーディングしていると、自慢げにかたるJポップ系のアーティストはよく目にします。ですが、この記事を読んでいるのは、良くも悪くも、最低価格帯の機材で乗り切ろうとしている方が多いと思いますので、参考のためにあえて言わせてもらうと、「べリンガーの5千円のマイクプリも、某メーカーの10万のマイクプリも大して変わらんよ」ということです。まあ、20万くらい出せば、サウンドに独特の雰囲気や、色が付くということもありますが、その色、雰囲気が、その人にあっているか、その曲にあっているかは、また別の問題だということです。わかりやすい例としては、一眼レフカメラを使った写真が、機種によって独特の雰囲気になるということと似ている気がします。

 そこで最低価格帯のマイクプリですが、べリンガーのものなど、銀色の四角い弁当箱のような形をした5千円位で買えるもので十分使えると思います。似たような真空管のマイクプリは似たような形のものが各メーカーから、いろいろ出ているのでどれでもいいと思います。ただし、オーディオテクニカからでている3千円くらいのマイクプリは、出力が一系統、ファンタム電源なしと、機能的に使い物にならないのでやめたほうがいいでしょう。

最低レベルのモニター用ミキサー

 マイクプリアンプが用意できたら、次に、マイクで歌う自分の声と、オーディオインターフェイスのアウトをバランスをとって聞くためのミキサーが必要になります。このミキサーはレコーディングやミックスダウンに使うわけではないので、本当に最低価格帯のものでいいことになります。つまり、自分の声とオケの音程があっているか、自分の歌がオケのリズムとズレが無いか判断できればいいので、多少ガリがあろうと、ブーンというハムノイズが終始なっていようとそれでいいことになります。ヴォーカルの繊細な表現をしようとする場合は、多少はまともな音質のものがいるような気がしますが、最初はそこまで歌えるとは思えないので、とりあえずはべリンガーの五千円程度のものか、ヤフオクの中古で千円程度のものでいいと思います。ただし、最低3チャンネルは、独立してコントロールできるものにして下さい。みなさんは「2チャンネルで済むだろう」と言うと思いますが、その理由はあとからわかります。

ヴォイスレコーディングの準備

 マイクプリとモニター用ミキサーが用意できたところで、実際のレコーディングについて考えてみます。

ヴォイスレコーディングのためのミックス

 「ヴォイスレコーディング用のミックスバランス」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。これは「歌入れ」つまりヴォイスレコーディングがしやすいように、ミックスバランスを整えてから録音するといった意味の言葉です。その意味からすると、「歌入れ」がしやすいように、音程をとるためのピアノなどのコード楽器を真ん中で大きめにし、ドラムなどはハジッコに置いて小さいレベルで、というようなことを言いたいのだと思いますが、実際にはあまり意味はなく、ドラムの音が耳障りなら、トップマイクのトラックを残して、あとはミュートしてやればすむ事ではないかと思います。

ガイドトラックの作成

 ガイドトラックとは、歌の音程をとりやすくするために、シンセなどで歌のメロディーを弾いたトラックのことです。カラオケボックスで流れるカラオケ音源には、小さい音でメロディーラインが乗っていますが、これの大きいバージョンと思っていいです。このガイドトラックを聞きながらだと、歌入れがらくになりそうだと思うかもしれませんが、実際はただ邪魔になるだけで、たいして役立たないと思います。むしろ、これになれると、「ガイドトラックに合わせて歌いました」というような、はたから見ても硬い歌い方をするような人になってしまいます。

キーボードの用意と音源の立ち上げ

 先のふたつの例が、定説ですが、はぼほぼ役に立たなかったので、今度はやっと役に立つ準備をしていきます。キーボードとはパソコン周辺機器のキーボードではなく、鍵盤楽器のことです。MIDIキーボードの場合は音源が内蔵していないので、DAW上でプラグイン音源がなるようにしておきます。また、音源が内蔵されている電子ピアノなどの場合は、そのアウトプット端子からの音をミキサーにつないで立ち上げておきます。こうやって、ミキサー上に、キーボードの音が鳴るようにすることによって、ヴォイスレコーディングのときに、とても効果的な録音方法が実践できます。

カンニング唱法

 「カンニング唱法」とは、自分が作り出したオリジナルな造語なので、こんな唱法や、録音方法をしている人は他にはいないと思います。さっき鍵盤を弾いた音が、モニター用のミキサーで鳴るようにセッティングしました。ということは、つまり自分の歌うマイクの音と、鍵盤を弾いた音がミキサーのヘッドホンから同時に聞けるわけです。つまり、録音されるマイクの音にはバレないで、自分だけヘッドホンで音程をカンニングしながら歌える事になります。さっき書いた「ガイドトラック」とにていますが、こっちは、声と鍵盤を同時に使いながら、録音していくので、感覚的になじみやすくなります。つまり、声と指を同じ人間が、リアルタイムで同時にコントロールするので、人間の機能にとってスムーズな感触が得られます。ギタリストのジョージ・ベンソンが、ギターと声を同時に使って演奏しているところを見たことがある方もいるかもしれません、うまいへたは別として、これをミキサー上でやるわけです。

 他のわかりやすい例としては、コーラスとか合唱の練習のときに、先生がパート別にピアノでメロディーを弾きながら、それにあわせてパート練習をさせられた経験のある方も多くいると思います。この「カンニング唱法」はそのときの感覚に近いのではないかと思います。つまり、音楽の先生が弾く単音のメロディーにあわせて、音程練習させられているときの感じです。あと蛇足ですが、期末試験のときに、覚え切れない単語などを机に書いて、カンニングしている感覚と同じように、取りきれない音程を指で弾いてカンニングしているような気にもなります。

 このように鍵盤をたたきながら録音するので、鍵盤の音は録音されずに、自分の声だけ録音されたと油断していると、鍵盤をたたく「コツコツ」という音が声にまじってかすかに録音されていることもあります。感度のよいコンデンサーマイクを使うとこの「コツコツ音」が入ってしまいますが、鍵盤をたたく音をなるべく静かにするとか、マイクを少し上向きにして、下からの音を入りにくくすることで対策することができます。また、Izotope社の「RX7」とかのノイズ取り専用プラグインを使えば、きれいに「コツコツ音」が取れるのかもしれません。

【朝露】ヴォーカルトラックとハモリトラック

【朝露】録り直したヴォーカルトラック

 それでは、ヴォーカルパートを取り直したバージョンをMP3にして載せておきます。前回の記事にも書きましたが、まったく定位、音質などはいじっていないので、モノラル音源のままです。ただし、ハイハットの音とシンバルの音が、歌っている最中に、耳に痛かったので、耐え切れずミュートしました。この音源でも、ミュートしたままになっています。

【朝露】 ヴォイス録り直し

【朝露】 ハモリパート

 曲によって、ハモリを多用できる曲と、あまり入れられない曲があります。その判断基準はいくつか考えられますが、この曲を例として考えてみると、この曲はキーボードのパートがテンションを多用したアプローチをしているので、さらに声でハモリを多用すると、2重にハモがバッティングしてしまうということになります。別のいいかたをすると、キーボードパートですでにハモっているということです。ですので、この曲に関しては、ハモリパートは最小限にとどめたほうがいいらしいと判断しました。そこでこの曲でのハモリパートのおおまかな方針としては、

  1. キーボードパートとのバッティングを避けて隙間をぬうようにする。
  2. メロディーパートを邪魔しないように、上と下からはさむ様にアプローチする。
  3. 字ハモ(言葉があるハモ)を一箇所位いれて緊張感を作る。

という方針でハモリパートを考えてみました。この音源はさっきのヴォイス録り直しのトラックにそのまま、ハモリを加えたものです。

【朝露】 ヴォイスハモリ

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