前回までで、大体の音作りは終っていますが、残りのシングルノートの音作りを済ませてから、ミックスダウンに入り、楽曲を完成させます。
ギター・ソロの音作り
「ギター・ソロ」とは、ギターで弾かれるシングル・ノート(単音)のメロディーのことです。よく、「リード・ギター」とか「アドリブ・ソロ」と呼んだりしますが、ほぼ同じ意味と思ってよいと思います。その 「ギター・ソロ」 ですが、弾いている弦のポジションや、指の強弱によって、本人の意図しない音量差が出てくるものです。それを補うためにも、はじめにコンプレッサーによって、音量差を、多少なりとも解消したいところです。(ギタリストがうまければこの作業は、必要ないかも知れません)
そこで、よく使っているプラグインのコンプレッサーを2種類「ギター・ソロ」にかけて、書き出してみました。書き出された波形をみると、音量差はかなり改善され、サスティーン(音の伸び)も出てきましたが、波形の頭(先頭)に角(つの)のような音量差が出てきてしまいました。これは2種類とも、アタックを最速にしても解消されませんでした。ここで、他のコンプレッサーを試すのも、使い方をあまり把握していないこともあり、コンプレッサーで音量をそろえるという作業は、断念しました。つまり、 「ギター・ソロ」 などのリード楽器にむくコンプレッサーは、意外と少ないということだと思います。反省点としては、 「ギター・ソロ」 に使えるコンプレッサーを、自分なりに試行錯誤してあらかじめ用意しておくと、あとからの音作りが、らくになると思います。
コンプレッサーによる音量差解消を断念したので、今度はアンプシュミレーターで音作りをしていきます。ギター・アンプに付いているディストーションは、頭をツブしてレベルを均一化する働きもあるので、多少なりとも音量差解消も期待できます。曲の中間部にある「ギター・ソロ」 のところを繰り返し聞きながら、いろいろなアンプシュミレーターを試してみたところ、深めの「オーバードライブ」のセッティングがむいていると思いました。念のため、波形を書き出して、確認してみたところ、頭のツノはまったく出ていませんでした。さすがにギターに最適化されているので、使いやすくなっていると思います。
この「オーバードライブ」のセッティングのまま、イントロ、中間のソロ、アウトロと3か所にかけて書き出しました。ところが中間のソロを聞きながら音作りをしたせいで、中間とアウトロには、このセッティングで合っていますが、イントロには、音があいませんでした。イントロでは、他の楽器パートが比較的冷静に始めているのに、ギターだけが、ひとり気合入れまくりで弾いていて、完全に浮いた存在になってしまいました。アウトロについては、イントロと全く同じフレーズですが、こちらは他の楽器パートも多少音数が増えて、盛り上がりが見られるので、そんなに浮いていないと思ったので、このセッティングで通しました。
イントロの 「ギター・ソロ」 がオーバードライブでは、浮いてしまったので、もう少しおとなしい音、あまり歪んでいないセッティングが必要となりました。イントロのところを繰り返し聞きながら、試したところ、「クリーン・アンプ」のアンプシュミレーターを、少しだけ歪ませると音質的にあったように感じます。このセッティングのまま、オブリガードのギター・フレーズにかけても問題なかったので、そのまま書き出しました。
ここまでで、ギター・ソロの音作りが終ったので、音源を載せておきます。この音源では、曲のなかの「Bメロ」の所(♪国道沿いに出るまでの…..の所)が、音数が多く感じたので、ギターのコード・バッキングのパートを試しにミュートしています。(結果的に空虚な感じになったので、あとの音源ではもとに戻しました)
ヴォイス・パートの音作り
メイン・ヴォーカルの音作り
「ギター・ソロ」 の音作りで、普段使いのコンプレッサーがソロ・パートには向かなかったので、今度は最初から、ヴォーカル用の専用プラグインを試していきました。ヴォーカル用のプラグインとしては、各社からたいてい「VOX」という名前を含んで出されているようです。こういったプラグインの標準的なかかり方としては、多少「もっさり」とした感じで、音圧が上がるわけではないが、聞こえやすくはなります。書き出して、波形でみても元の波形とほとんど同じですが、不思議ととおりがよくなる感じがします。この曲の場合は、このくらいのかかり具合でよいと思いますが、もう少し音圧とか、ハリがほしいときに備えて、ヴォーカル用のコンプレッサーとセッティングを用意しておく必要性を感じます。
コーラス・パートの音作り
コーラス・パートの波形を見ると、ほぼ四角形のまま、まっすぐ端まで伸びています。そこで、この曲のコーラスに関しては、特にコンプレッサーなどで音量を調整する必要が無いと思います。あと、声を出している周波数も、ハモルのに必要な帯域に絞って声を出しているように聞こえるので、イコライザーをかけて削る必要もないような気がします。
こういった事から、コーラスパートに関しては、何の修正も必要ないと思いますが、メインのヴォーカルから、一歩下がったような位置にするために、ルームリバーブをほんの少しだけかけて、マイクからの距離を出してみました。
それでは、ヴォイス・パートの音作りを終えた音源を載せておきます。メイン・ヴォーカルが少し大きめと思いますが、まだ音量調整をしていないので、そのまま書き出しました。
音作りフォルダのバックアップ
ここまでで、すべてのトラックの音作りが終ったので、この段階で、外部ハードディスクなどにバックアップを取っておきます。可能ならば、トラックの頭から書き出した音声ファイルにすると互換性の点でさらによいです。また、ダメもとで「OMFファイル」でも書き出しておくと、他のDAWにイッパツ変換できることもあります。なぜこの段階で、バックアップを取るのかという理由は、
- リバーブの機種が変わったときに対応するため。
- リバーブの使い方のスキルが上がったときにミックスをやり直すため。
- 時間があるときに、じっくりとミックスしなおすため。
- 他のDAWソフトでミックスするため。
- 今のDAWのヴァージョンアップにそなえるため。
- 他のミキサーに依頼するとき、音作りの参考にしてもらうため。
といったことからですが、実際の話が、センドリバーブの機種を変えるだけで、音の印象はガラリと変わるので、リバーブの入れ替えをするというのが、いちばん大きな理由です。
リバーブの3種類の使い方
ミックスダウンをするときのリバーブの使い方ですが、大雑把にいって、3種類考えられます。
- トラックごとに、最適なリバーブを選んで、緻密に音作りをする。
- センドリバーブを、ソロ楽器用と、バックの楽器用に2種類用意して、使い分けていく。
- センドリバーブを1系統用意して、このひとつのリバーブでまかなう。
どの方法も一長一短あるとは、思いますが、実際にはこの3種類を組み合わせていくことが多いのではないかと思います。この曲の場合も、音作りの段階で「非常に短いルームリバーブ」をかけながら音作りをする事が多かったので、もうすでに、1のアプローチをしているといえるのかもしれません。
センドリバーブの使い方
この曲の場合は、前の段階の音源「【朝露】ヴォイス」を聞くと、ほぼ出来上がっているように感じるので、いちばんシンプルな3のアプローチ、つまり、センドリバーブ1系統でいいと思います。
センドリバーブを使う手順をごく簡単に説明すると、
- DAWのトラック上に、FXチャンネルをつくる。
- FXチャンネルに、使うリバーブをインサートして設定する。
- 各トラックから、FXチャンネルへの「送り量」で深さをきめる。
ここで、大事なのは、使うリバーブの機種選択です。リバーブの質には好みの個人差が激しいので、高いプラグインがいいとは必ずしも言い切れないと思います。この曲で使ったのは、畳み込み演算方式のリバーブのスタジオのプリセットです。あっさりとしたかかり方ですが、このぐらい軽めのリバーブのほうがこの曲にはあっているのでは、と思いました。
すべてのトラックをFXチャンネルに送って、かかり具合を決めるわけではなく、基本的には、リバーブをかけないトラックというのも、結構あります。代表的な例としては、
- バスドラムのトラック
- ベースギターのトラック
このふたつは、薄くリバーブをかける人も、ごくまれにいますが、一般的には、リズムのタイトさを失うのでかけないことがおおいです。
この曲の場合は、キーボードのパートとシンセパッドのトラックはMIDI音源から書き出した時点で音が、ほとんど出来上がっているせいか、リバーブをいくらかけても、ほとんど音が変化しませんでした。そこで、このふたつの音源は、リバーブをゼロに戻しました。
ドラムのトラックは、全部で6トラックあり、シンバルとハイハットに、「ごく短いルームリバーブ」がすでにかかっていて、これでバランスが取れているので、基本的には、これ以上リバーブをかけないことにします。例外として、スネアの下の方、つまり、響き線(スナッピー)の側だけは、リバーブをかけると、音色も変化して、曲に広がりがでました。
あと、クラッシュ・シンバルには、もう少し、長さと音量が欲しいと思われるので、トップマイクのトラックから、クラッシュ・シンバルの所だけコピペして、新たにトラックを作り、そこにリバーブをかけました。こうしてみると、6トラックのドラムで、まともにリバーブがかかったのは、わずかに1トラック半といったところです。
最後にシングル・ノートへのリバーブです。ヴォーカルについては、少し深くしただけで、音色が変わってくるので、必要最小限にしました。ヘッドホンで、ソロで聞いても僅かに輪郭がボケる程度です。ほぼノンリバーブと言ってもいいくらいのレベルですが、この程度のかかりで、曲に溶け込んでいるような気がします。コーラスについては、リバーブで音色変化しても、それほどおかしくないので、普通くらいのかけ方をしています。少しかけすぎたかも知れません。
ギターソロについては、曲に溶け込む程度の弱めのかかりにしています。オブリガードのギター・フレーズには、少し広がりを出したかったので、ギター・ソロよりは少し強めにかけました。
これでセンドリバーブの送りも終ったので、最後に各トラックの、パンポットの位置を微調整してから、MP3で音源を書き出しました。今回の曲【朝露】の一応の完成形となります。ブログでは使用容量の制限でMP3になるので、原曲に比べて音質は相当落ちてしまいます。YouTubeなどの動画のフォーマットは、「24bit96khz」 か「24bit48khz」が使えるので、動画にしたときは、大幅に音質が改善されると思いますので、機会があったら動画のバージョンも聞いてみてください。今回は、制作過程の連載記事を長い間、読んでいただき、まことにありがとうございました。
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