前回の記事では、MIDIデータを使った作曲例として「朝露」という曲を作曲したので、今回はこの曲に、各楽器のパートを重ねていって、曲らしくしていきます。
「朝露」の編曲の方法
前回作った曲「朝露」は、コード、メロディー、コード譜という最もシンプルな3点セットのみでした。そこで、アレンジのアイデアを膨らますためにも、各楽器のパートを重ねていくという方法をとります。このやり方の事を、一般的にはヘッドアレンジとか、バンドアレンジと呼びます。よく、曲名のしたのほうに、作詞、作曲、編曲と書いてあって、その編曲の欄にバンド名が書いてあれば、それは、こういったやり方、つまりヘッドアレンジで編曲したものと思ってよいと思います。
録音の方法
楽器を重ねていくときに、バンドメンバーがその場に揃い音も出せる環境ならば、「せーの」で一斉に音を出してアレンジしていくという方法もあります。しかし、そんなに恵まれた環境にないとか、たとえバンドを組んでいたとしても、1人で演奏しながら音をじっくり重ねていくというタイプのひとも、じつは多いです。今回はもちろん、バンドメンバーもいないので後者の方法になります。
つぎに楽器パートを重ねていく方法ですが、
- コード進行がわかるトラック。
- メロディーが入ったトラック。
の最低限ふたつのトラックが入ったDAWを聞きながら、ダビングをしていきます。
前回の記事の作曲の手順からもわかるように、DAW上でコードを入れたり、メロディーを歌ったりしながら作曲したので、そのDAWには、作曲が終わった時点で、コードと歌のトラックが出来ているはずです。そのトラックに、そのまま重ねて録音していけばいいだけです。ですが、作曲用のパソコンと、楽器録音用のパソコンを分けている場合は、外付けハードディスクや、USBメモリを使って、パソコン間で曲のデータの受け渡しをします。じつは作曲と楽器録音は、作業内容がかなり違うので、できれば、パソコンを分けたほうが、作業効率もあがるし、作業に集中できると思います。
録音の順番
録音のガイドとなるコードとメロディーの2トラックを、録音用のパソコンのDAW上に用意できたら、今度は1パートずつ録音していくことになります。そのときにどのパートから録音していくのかというと、はっきりとした基準はありませんが、例としてあげると多いのが、
- コードの入ったトラックの完成度を高めるために、ピアノ(ギター)から録りなおす。
- 最初に土台となるドラムから録音していく。
のふたつのパターンだと思います。
1のピアノからは、曲調が弾き語り風の場合は、ピアノ(ギター)のパートをかためて弾き語りとしての完成度を高めておいてから、それに必要な音源を重ねて曲としての完成度を高めていくことを考えています。シンガーソングライター方式と呼んでいいでしょう。
2のドラムからは、曲がバンド調の場合は、コードトラックは、コード進行がわかる程度のものでいいので、それをガイドにして、ドラムを先に録音して、そのドラムパートを土台として、その上に楽器を重ねていきます。ドラム、ベースを基礎の工事と考えて、その上に家を建てていくようなイメージ、つまり建築と近いかもしれません。
ドラムの録音
生ドラムを録音するときに、はじめに問題になるのが、マイクの本数です。少ない場合はトップマイクとバスドラ用の2本で録る事もできますが、多いときはドラムセットの楽器すべてにマイクを立てるので、10本以上になることもあります。各ドラムの音を、ステレオに定位するのが一般的な音像なので、その場合は6本から8本位で録音するのが標準的な本数となります。
参考までに、今回のドラム録音に使ったマイクのセッティングを書いておきます。
- トップマイク(ドラムセットの上から全体を拾う)
- バスドラム
- スネアドラム上(スネアの上から「ポン」という音を拾う)
- スネアドラム下(スネアの下から響き線の「バシャ」という音を拾う)
- ハイハットシンバル
- ライドシンバル
というように計6本のマイクで、録音しました。この セッティング の意図を少しだけ、説明すると、
- ハイハット、ライドシンバルというリズムを刻む楽器を、左右に振り分けてステレオ感を出す。
- スネアドラムを上下から録音して、そのミックスの割合によって、曲調に合わせた音質にする。
といった事を考えています。ここで、実際にDAW上のトラックを聞きながら、ドラムを録音した音源を載せておきます。
追加したドラムの音源は、録りっぱなしで、各パートの定位も、音量バランスもとっていません。そのせいで、ハイハットとシンバルの音が、かなり大きくなっています、一般的なバンドでミックスした時の約5倍位の音量だと思います。演奏が荒く聞こえるので、このようなバランスにすることは、まずないです。その代わり、なまなましいドラムの音になっています。こんな、なんの処理もしていない荒いドラムの音でも、ただ重ねただけで、急に曲らしくなってきます。バンドサウンドにおけるドラムの重要性がわかると思います。
ベースの録音
ドラムの録音が終わったので、これを聴きながら、ベースをダビングしていきます。ベースをダビングしていくときに、
- はっきりとしたパターンを持つもの
- はっきりとしたパターンはなく、コード進行にそっていくもの
というように、2つケースに分かれるような気がします。曲調やテンポ、ドラムのリズムを感じながら、ベースを弾いていると、リフのようなパターンが出てくることがありますが、なんのパターンも出てこなくて、ドラムのバスドラに、ただ合わせていく場合もあります。今回は、後者の例で、これといったパターンは出てきませんでした。パターンがないから悪いベースということは、一概には言えなくて、すべては曲調にあっているかどうかが重要だと思います。それでは、ドラムにベースを重ねた音源を載せておきます。
ギターの録音
ドラム、ベースと重ねてきたので、今度はギターを重ねていきます。そのときに、すでに曲を作るときにのこした、キーボード風のコードを弾いているトラックがあるので、それとの兼ね合いを考えます。このキーボードトラックは、小節の頭から始まって小節の終わりまで伸ばしきるような弾き方、俗に言う「白玉」なので、ギターは頭を避けた弾き方をしたほうがバランスがとれると思います。ほかにも理由があって、ベース、ドラムのバスドラも小節の頭を打っているので、ギターもこれをやると、音がダンゴ状態になるとか、音のピークが小節の頭にできるので、あとからミックスするときに曲の音量レベル面で、不利になる。つまり、小節の頭に音量のピークのある音源は、音が割れるのを防ぐために、そのピークにあわせて、相当低い音でミックスすることになります。といったことから、ギターで頭を弾くことだけは避けたいところです。このように考え、頭を避けて弾いたギターパートは、このようになります。
オブリガードの追加
音の構成をバンド風に重ねてきたので、「ドラムの音の荒さ」はひとまず置いといて、だいぶ曲らしくなってきたと思います。しかし、歌のメロディーとメロディーの間が、空いているので、ここをうまく埋めることができれば、曲の完成度を高められると思います。じつは曲を演奏している最中にも、いろんな穴埋めのフレーズが頭に浮かんでいるのですが、これを実際に弾いてみて、うまく曲にはまった物を採用していきます。この「オブリガード」は日本でいえば、民謡の合いの手のようなもので、素人のど自慢で、メインで唄っている人のよこで、「ハイナ」とか「チョイナ」とか合いの手を入れるおばさんを見かけますが、これの西洋版のようなものです(笑)。バンドにおけるオブリガードは、だいたいギターかオルガンで入れることが多いと思います。それでは、オブリガードを加えた音源を載せておきます。
まとめ
今回は、音の定位とか、バランスを完全に無視して、音を重ねていくことを中心に書きました。ですので、この音源はすべての楽器が定位されていない、つまり、センター定位イッパツだったわけです。ということは、つまり、結果的にモノラル音源になりました。この音源をステレオに振り分けたり、音を処理したりしながら、曲として仕上げていくわけですが、ヴォーカルパートが曲を作ったときのままなので、ところどころ、音程やリズムがあっていないのが気になってきました。そこで、次回はヴォーカル・レコーディングを中心に書いていきたいと思います。
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